「自宅謹慎って家から出てもいいんだっけ」

 彼女が急に顔を上げ、なにかを思いついた顔でこちらを見た。

「まあ、だめだろうな」

 冷静な言葉を返したら、彼女は若干楽しそうな笑みを浮かべて口元を緩ませた。

「行こう」
「どこに」
「そんなの決まってるでしょ!」

 跳ねるように立ち上がったかと思うと、ハンドルを握って無理やり俺の進路を変えようとしてくる。どうして最初に断らなかったのかと、今まさに後悔していた。

 壇の姿を最後に見たのは、一本道から脇道へ逸れ、森林の中に入っていくところだった。

「見失っちゃった。どこ行ったんだろう」

 自転車を大通りに置き去りにして、無謀にもそれだけの情報を頼りに探している。木々がそこら中に根を張る足場の悪い山道を奥へ奥へと進んだ。

 どこを見ても同じような景色ばかりが広がっていて、来た道を帰れる保証もない。

 携帯がない今〝遭難〟の二文字が頭から離れなかった。

 夕方で日もだんだんと落ちてくる時間帯に差し掛かり、彼女ひとりを置いていくわけにもいかずに歩き続ける。

 きっと帰ろうと言ったってすんなり引き返してくれるような性格ではないだろう。そんな気がしてなにも言わなかった。

 不意に遠くから聞き覚えのある音が聞こえ、足を止めた。