「そういえば〝海はスポーツ馬鹿だから〟とも言ってたけど、なんのスポーツやってたの?」
不意打ちでくらったボディブロー。突然すぎてパンが変なところに入って咳き込み、慌てて水に手を伸ばした。
「ごめん、変なこと聞いた?」
「いや別に」
そのまま黙り込んでいたら空気感で伝わったのかそれ以上は詮索してこなかった。
あからさまな反応をして怪しまれたかもしれないが、気軽に話せるような話題でもなければ、できれば触れられたくはなかったからホッとした。
熊はいつもペラペラとなんでも話してしまうから困ったものだ。そこに悪気がないと分かっているから余計に厄介だった。
お互い黙々と食べていたら、近くを通った会話が何気なく耳に入ってくる。
「聞いた? 伊藤くんたちの話」
「知ってる。金髪の子と喧嘩になって自宅謹慎中なんでしょ?」
桜井月も気づいたようでふたりして目を見合わせた。
「怖いよねヤンキー。なにで怒るか分かんないって言うか」
噂話をする彼女たちはちょうど隣のテーブルに座った。気になっていた金髪の男の情報を得るチャンスだと、彼女も聞き耳を立てているに違いない。
「その話聞いてもいい?」
しかし俺の予想は大きく外れた。もはや聞き耳を立てるなんて概念はなく、彼女は椅子ごとぐるりと後ろを向き直接話しかけ出した。