いつもなら熊が八割方話してくれるから口数の少ない俺も気楽にいられた。でもふたりだけでは沈黙が続き、気まずさに拍車がかかった。

「そういえば金髪の男の子って知ってる?」

 階段を上り切ったあたりで、突然ふられた話題に目を丸くする。

「金髪?」
「白に近い金みたいな。まだ学校で一回も見かけたことないんだけど、ちょっとお礼が言いたくて」

 ふと森の中で見た男のことを思い出した。

 頭髪やアクセサリーの類は基本自由。制服もないからいろんな格好の生徒がいる。でもあそこまで目立つ抜け切った金髪は珍しくて、きっと彼女が探しているのと同一人物だろう。

 記憶を辿ってみれば、あれ以来俺も見かけてはいなかった。

 一瞬考えて、さあ、と首を傾げたら桜井月は誰かに気づいて手を振りだした。

桐島(きりしま)さん、おはよう」

 目の前からはモデル並みな体型のエキゾチックな顔立ちをした美女が歩いてきた。

 声に反応してゆっくりとこちらを向いたが、表情ひとつ変えずに目の前を素通りしていく。去り際に切れ長のアーモンドのような瞳に見つめられた。

 教室へ入っていく彼女はさらさらとしたオレンジ色の髪だけを跡に残し、長い前髪をすっと耳にかけた。

「ルームメイトなんだけどどうも掴めなくて」

 独特なオーラを前に固まった。

 一度見れば誰の記憶にも残るような派手な風貌なのに、これまで見た記憶はまるでなかった。

「キャンプのときからいた?」
「ううん、体調悪そうでずっと家にこもってたみたい」

 ふたりで一番後ろの席をとると、前方にはオレンジ色の髪がよく見える。誰ひとりとして話しかけようとする者はいなかったが、周りの視線をまとめて釘付けにしていた。