サマーキャンプを終えて一週間が経った。
じんわりと汗ばむ空気の中、廊下に出て次の授業の準備をする。
「おはよう、海くん」
ロッカーの隙間から桜井月がひょっこり顔を出した。
「おはよ」
ちらりと顔を見てから、扉の陰に隠れて言葉だけを残す。
ここは単位制で、俺たちは事前に授業のカリキュラムを組んだ。熊が知らぬ間に三人分の時間割を合わせていたせいで、彼女とはほとんどの授業がかぶっている。
今もまさに、一緒に教室へ向かおうと壁に寄りかかったまま俺が動き出すのを待っていた。
ただ正直、話すのは気まずい。
彼女を見るたび、キャンプ場で見てしまった親密そうなあの光景が頭にちらつく。
当の本人は密会現場を見られていたなんて思ってもいないだろうが、こちらからすればどんな顔をすれば良いか分からず、熊に隠し事をしているのも心苦しかった。
英語の教科書と辞書を手にとりロッカーを閉めようとするが、彼女の足がまだちらりと見えて吐息が漏れた。
「そういえば熊くんは?」
彼女は当たり前のように隣を歩く。
「朝から腹痛いってトイレから出てこないから置いてきた」
「だから珍しくひとりなんだ」
三階建ての校舎の階段をのぼりながら、ふたりっきりになるのは初めてだったと思い返していた。