正午過ぎ、フェリーは桟橋に到着した。
船の片道切符を手に島へ降り立った俺たちの前には閑散とした景色が待っていた。
桟橋を進んだ先の通りに一軒だけ見える白い建物が、島に唯一あるというコンビニだろうか。遠くを見渡しても他には建物らしきものは見えず、改めて都会のありがたみを痛感させられる。
肩からだらんと垂れさがるリュックから、おもむろに角の折れ曲がった案内用のパンフレットを取り出した。自宅に送り付けられたものの中に島の地図が入っていたのを思い出した。
「海、行こうぜ」
途端に名前を呼ばれて顔を上げた。
大きな二本の八重歯を見せて、友人の熊木雅人が笑っている。
迎えの中型バスを指差した。こちらの返答を待たず、猫毛の茶色い髪を触りながら進んでいく背中を仕方なく追いかけた。
手の中のものは、ぐしゃりとリュックにしまい込んだ。
「俺らのバスどれ?」
「さあ。どれかしら乗れば着くっしょ」
三台ほど停まっているバスを見ながら、熊の返答に苦笑いを浮かべる。昔から変わらず楽観主義だ。