「その女が勝手についてきたんだよ」

 沈黙を破って口を開いたのは壇と呼ばれた彼だった。

「さぼりたいのに準備手伝えってうるせえんだよ」

 聞こえてくるのは耳を疑う言葉ばかり。初めて聞く話にどうしてそんなことを言い出したのか分からず、戸惑いを隠しきれなかった。

「なるほどな。それは正しい行動だ」

 納得した様子の主任教諭が彼を鼻で笑う。得意げに細いフレームの眼鏡をかけ直した。

「お前は本当に問題ばかりありそうだな。親父さんが泣いてるぞ」
「あ?」
「まあいい。次は容赦なく謹慎処分にするから覚悟しとけ」

 私は壇くんだけが悪者になっているこの状況をどうにかしなくてはと焦った。

 首根っこつかまれ連れていかれる彼と目が合い、私は咄嗟に誠くんを見る。しかし安堵の表情を浮かべて、むしろこの展開を喜んでいるようにさえ見えた。

「助かったあ」

 壇くんが連れていかれふたりになった途端、太い幹にもたれかかった誠くんの小さな声が漏れる。

「助かったなんてひどい」
「そう? こっちがバレる方が困るでしょ」
「でもあの人は私たちを庇ってくれたんだよ? なにも悪くなかったのに」
「まあでも仕方ないでしょ。さぼってたのは本当なんだし」

 冷たく言い放たれ、私の知っている誠くんの口から出た言葉とは思えなかった。

 興奮する私をなだめるように頭をぽんぽんとして歩き出す。彼の背中はだんだん遠くなっていった。

 こんなのおかしい。取り残された私は心の中にもやもやとした感情を抱えていた。