「そろそろ戻った方がいいよ」

 周りをキョロキョロと気にする彼といられるのはほんの二、三分ほどだ。

 島に移住すると聞いて二年間会えなくなるくらいなら私も一緒に行ってしまおう、と安易な考えで編入を決めた。だけど公にはできない関係はとても寂しい。

「ねえ、もう少しいいでしょ?」
「見つかったらさすがにまずいし」
「大丈夫だよ。みんな作業してるしこんなところまで来ないよ」
「気持ちは嬉しいけど我慢しよう」

 私の顔もろくに見ず、誰かが通りはしないかとそればかり気にしていた。

 たしかに教育実習生が生徒と付き合っているなんて知られれば問題になる。勝手についてきたのは私だけれど、彼の迷惑になりたかったわけではない。

 仕方ないとは思いながらも想像していた学園ライフとは違い、気持ちは少し沈んでいた。

「じゃあ月ちゃん先に戻って……」
「待って」

 私はぎゅっと彼に抱き着いた。

 一瞬驚いて引きはがされそうになったけれど、必死にしがみついた。

 これから本格的に学校が始まればこうしてふたりで会う機会も減る。そう簡単に会えなくなってしまう。だから彼の温もりを覚えていたくて、もう少しだけ傍にいたかった。

「少しだけだよ」

 諦めたように微笑むと私を優しく抱きしめ返してくれた。

 そっと頭にのせられた大きな手は温かく、彼の匂いに包まれて幸せを感じる。腕にぎゅっと力を込めた。

 そのとき、砂を踏みしめる足音が聞こえた。慌てて離れると、少し先で暗闇に同化する人影があった。目深にフードをかぶる背の高い男の子がこちらを見ていた。