出会いは中学二年生の春。当時大学一年生だった彼が家のリビングで紅茶を飲んでいて、母からは『今日から月の家庭教師になってくれる先生よ』と突然紹介された。

 成績が思わしくないからと両親にはずっと勧められたが、断固として家庭教師なんていやだと言っていた。でもいざ彼と対面したら私の中に電撃が走った。

『月ちゃん、よろしくね』

 微笑んだ甘いマスクに目を奪われ、穏やかな優しい声も私には高級なバイオリンの音のように聞こえてきた。周りの男子とは全然違う、余裕ある年上男性。

 私は一目で恋に落ちた。

 それから、私はとにかく勉強した。週に二日、彼のくる日が待ち遠しくて、馬鹿な女だと思われないようひたすら机に向かった。

 両親も劇的な変化には驚いていて、先生のおかげだと感謝し、夕食まで一緒に食べる日もあった。

 彼が家庭教師だったのはたった二年。その間に偏差値はぐっと上がり、神奈川県でも有名な公立の名門校へと進学することができた。

 私は中学卒業と同時にダメ元で告白した。

 五つ年上でちょうどハタチになる彼からしたら子供にしか見えないかもしれないけれど、気持ちだけは正真正銘本気そのもの。振られて元々、当たって砕けろの精神だった。

『付き合おうか』

 でも彼から返ってきたのは思いもよらない返事で、驚きを隠せなかった。何度も確認し聞き返したが、私の耳が間違っていたわけではなく本当に恋が実った。

 交際期間は一年、目の前にいる星野(ほしの)誠(まこと)くんと付き合っている。

 昨年の十月、教育実習の一環でこのプログラムへの参加が決まったと報告されたときは、迷いなく編入を決め彼を追ってここに来た。

 私にとって進学した名門校などただ誠くんに褒められたいだけの材料でしかなく、それ以外になんの未練もない。私は両親に頼みこみなんとか許しを得ることで彼と一緒にここにいる。