渡された食材でカレーを作り始めた。

 桜井月のいたグループと一緒に作業をすることになり、力仕事を引き受けておおかた料理は女子に任せた。

「追加で水汲んでくるわ」

 両手にバケツを持ち、ゆっくり森の中を進んでいく。飲み水以外は近くに流れている小川で調達してくるよう言われていた。

「たしかこの辺に」

 ひとりで呟きながら歩いていたら、目の端にきらりと光るものが映り、茂みの中に人影が見えた。

 大きな木を見上げる人物は、空に向かって小さなシャッター音が響かせる。草木をかき分ける鳥がバサバサと空に解き放たれていった。

 バケツを持って固まる。

 全身真っ黒な装いでいる男もこちらに気づいた。目深に被ったパーカーのフードからはみでる髪は、木漏れ日の中で鮮やかな金色に光っていた。

 目が合ったのはほんの数秒。お互い時が止まったかのように視線を交わらせ、なにを言うわけでもなく同じタイミングで背を向けた。

 ひと通り生徒の顔は見たつもりだったけれど、あれは見ない顔だ。

 遠くからでもわかる鋭い目つきに彫りの深い顔。特にあの特徴のある髪色は一度見たら忘れないだろう。

 見てはいけないものを見たのかもしれない。それ以上深くは考えず、何事もなかったかのように小川に向かって進んだ。