「歌手になるって言ったら、これは私の夢なのかな」
「なんで俺に聞くんだよ」
物音がする奥から途切れ途切れに聞こえてくる会話に驚く。
熊くんと肩をぴったりくっつけ壁に寄りかかりながら、バレないかとひやひやする。
「ピアノはお母さんが習わせてくれた。歌も好き。それだけで私になれるのかな」
ナオミは私にも語ったことのない夢を海くんに聞かせていた。
「なれるか分かんないから夢って言うんじゃないの? だからみんな夢を叶えようと必死で努力するんだよ」
説得力のある言葉を聞いて、そっか、と静かに口にする。
最初の相談相手が自分でなかったことにちょっぴり寂しさを覚えながら、その相手が海くんだったことに少しだけ嫉妬した。
ふたりは並んで帰っていく。
膝を抱えてうずくまる私の心はざわざわと違和感を覚えていた。