「海くんって器用なんだねえ。熊くんも良かったね、同じ班に頼れる人がいて」
「あー、まあなぁ」
こうなると何をしに来たのかわからない。熊がかっこいいところを見せたくて来たはずなのに、当の本人は桜井月と一緒になってしゃがみ込んでいる。
必死に汗をかいているのはなぜか俺だけだ。
「汐江くんってさあ、東京の人?」
「まあ」
「汐江くんって、月ちゃんとは元々知り合いなの?」
「いや、別に」
挙句同じように周りで見ているだけの女子たちに囲まれ、質問攻めにされる。
「じゃあさじゃあさ、汐江くんって」
だんだんとエンドレスで聞こえてくる「汐江くんって」にうんざりしながら、手元のスピードを一気に早めた。最後のペグになったとき心底ホッとした。
思いっきりペグを打ち込んだら、即座に立ち上がり手の甲で汗をぬぐう。
「ほら終わった。熊、戻るぞ」
熊の肩からタオルを奪い取り、さっさと歩き出した。
「じゃあな、月」
「うん、ふたりともありがとう!」
背後からのほほんとした会話が聞こえてきて、苛立つ。
「やったの全部俺だけどな」
汗を拭いたタオルを突き返しながら軽く睨みつけた。
「相変わらず女子からモテていいじゃん。イケメンは羨ましいよ。俺なんて〝海くんがいて良かったね〟なんて月に言われちゃってさ」
隣でぶつくさ言いながら俺の苛立ちを上回るいじけっぷりを見せられ、面倒になる。放っておくことにした。