隠れて見ていたのは、遠くで帆を動かしながら水上を進む海くんの姿だ。

 あれからウィンドサーフィンを始め、毎日のように練習を重ねていた。

 クリスマスイヴの今日も欠かさずそこにいる。

 新たな道へと背中を押した手前、彼の動向は見守りたい。また失ったら引き上げてあげるなんて言ったものの、やっぱり今度は失わずにいてほしいと願っていた。

「月が見てたってなんも変わらないのに」
「それでもいいの!」

 熊くんを尻目に彼を見守った。

 佐伯先生曰く、筋が良く上達も早い方らしい。

 すぐに板の上に立って、ものの数日で自由自在に帆を操る。すでに波にも乗れるようになり、さすがの運動神経を見せていた。

「なあ、月。今日のパーティーのあと、見せたいものがあるんだけど」

 聞こえてくる声はほとんど右から左へと流れていた。

 遠くで海くんが波に攫われたのを見て力が入り、ひやひやと壁にしがみついた。

「あ、ごめん。見せたいもの?」

 しばらくして聞き直したら、熊くんは寂しそうに笑って「なんでもない」とはぐらかしてきた。