「ありがとね」
「ん?」
「ちゃんと立ち直ってから言おうと思ってた。あのとき海くんが代わりに怒ってくれて、私の心は救われたよ」

 ちらりと横を見たら、とてもすっきりと晴れやかな表情をしていた。

「ウィンドサーフィンやらないの?」

 なんの脈絡もなく聞かれたことに驚いて飛び起きた。

 誰にも話した記憶はないのにどうして知っているのかと口が開いた。

「熊くんがね、競泳を夢中でやってた時と同じ顔してるって。図書館でしょっちゅう資料映像探して見てて、きっとやりたいんだろうなって言ってたよ」

 なにも考えてなさそうに見えて、実は人一倍気持ちに敏感でよく人を見ている。

 熊には心底驚かされた。

「踏み出せないのは、また夢中になって失うのが怖いから?」

 あまりにもどストレートな質問が飛んでくる。

「多分そうかもな」

 いつもなら強がってみせるところだが、今日は不思議と本音を口にしていた。

 日常だったものを一瞬で失う恐怖や苦しさは痛いほど味わった。もしなにかに打ち込んでのめり込んでしまったらと思うと、怖くもあった。