俺はここに来てしまう理由が分かっているようで分からない、ムズムズとした感情を抱き、頬杖をつく。

 興味があるとは思いながら、どこか踏み込みきれない自分がいた。

「才能がなくて挫折した私とは一緒にされたくないだろうけど、これだけは言える。失ったままなんてもったいないよ」

 落ち着いた声で真っ直ぐな言葉が飛んでくる。

「後先考えずにがむしゃらに挑戦するって今しかできないことだと思う」

 がむしゃらに挑戦する。

 心の中でその言葉を繰り返していた。

「打ち込むのをやめるなんて、大人になってからでも十分できる。もはや嫌でもそうしなきゃいけなくなるかも」

 ゆっくり立ち上がる先生は大きく両腕を広げて体を伸ばす。

 満足げな笑顔のまま見下ろしてきた。

「暗くなる前に帰んなさいよ」

 額をつんと指でつつかれ体がのけぞる。去っていく後ろ姿はひらひらと手を振っていた。

「海くん」

 暗くなっていく空と共に階段の一番上で寝転んでいたら、聞き慣れた声に呼ばれる。

 視界いっぱいに月の顔が入り込んできたかと思えば、隣で仰向けに並んできた。