「好きなことってやめたくてもやめられないのよ」
俺は純粋な好きという気持ちを、いつからか手放していたことに気づく。
泳げるようになってどんどん上達していく自分に興奮し、夢中になっていた頃が懐かしい。
一番純粋に泳ぐことだけを楽しんでいた。
オレンジ色に染まる向こうの空には水上を進んでいく人影がある。
何度波にのまれても起き上がり、また帆を立てて挑戦していた。
しばらくしてゆっくりと砂浜に上がってきた。
「この島に来て最初の頃、友達ができなくて毎日ひとりでここに座ってたの」
話は視線の先にいるあの男のことだろう。
マリンスポーツとは縁がなさそうな、どちらかというとインドアなタイプに見える。
すかさず手を振る先生に気づきぺこっと頭を下げたが、隣に俺がいると分かりすぐに進路を変えていく。
「だから誘ったの。暇つぶしにでもやってみなさいって。そうしたら物の見事にはまっちゃって大変」
話しながらどこか嬉しそうだった。