「今日はやってないんっすね」
「なにを?」
三段ほど離れて座ると食い気味に意地悪く聞き返してくる。
にやりと笑みを浮かべるのを見て睨み返したら、豪快に口を開けて笑い出した。
「ごめんごめん、冗談だって」
気が向いたら来いと言った言葉を思い出す。
言われたから来たと思われるのも癪だが、ウィンドサーフインというものに興味があった。
「挫折したのに、嫌にならなかったんですか」
不思議と自分の方から話題を振っていた。
プロになれず諦めた過去を持つ先生とは、少なからず似た境遇にあった。
俺は挫折してからプールに入ることさえ嫌になってしまったのに、どうしてずっと続けていられるのか気になっていた。
「うーん、汐江くんぐらいの時はたしかにまだ辛かったかな。こんなに好きで頑張ってるのに限界だって思い知らされるのがもどかしかった」
夕暮れに照らされて佐伯先生の顔が赤く染まる。
遠く遠くを見つめながら、それでも彼女は微笑んでいた。
「だけどやっぱり楽しいじゃない」
一点の曇りもなく言った言葉は心に強く突き刺さる。