「じゃあマリアは?」
「もっと普通。てか、なんだよそれ」
質問の意図が分からずに笑ってしまう。
「桜井は?」
しかし、次の質問には急ブレーキがかかって言葉が出てこなかった。彼女との思い出が多すぎて、いろんな表情が頭の中をぐるぐると巡る。
上手く言い表せず、掴んだボールを持ったまま一点を見つめていた。
「普通」
やっと絞り出して言ったら、ふたりが顔を見合わせて困ったように笑う。
「俺的にはそれで十分だわ」
林太郎が立ち上がり、意味ありげに言葉を残す。
モヤモヤしたままでは悔しくて、引き留めようとした俺の前に熊がドンと立った。
「俺はちゃんと宣言したからな。後から文句言うなよ」
謎の宣戦布告を受け、ひとり部屋に取り残された。最近は試験勉強に飽きるとよくビーチに来た。
「やっぱり興味あるんじゃない」
堤防から続く階段に腰掛けていたら、佐伯先生が声をかけてくる。
「汐江くん、昨日も来てたでしょ」
ジーンズのポケットに指を突っ込みながら、階段を一段ずつ上がってきた。