「月!」

 テントの設営をなんとか終えたかと思えば、他の三人に断りをいれて一目散に桜井月のグループを訪れた。

「熊くん! それに海くんも」
「どーも」

 二度目の対面になる俺は小さく会釈し、軽く挨拶を交わす。彼女もまたぎこちなくぺこりと頭を下げた。

「ふたりとももう終わったの? 私たち全然で」

 桜井月の周りにはキャンプ用品を広げるだけ広げた形跡がある。苦笑いを浮かべる彼女の言葉に右にならえというように、他の女子たちは何度も頷いていた。

「そうだろうと思って手伝いに来た! 貸して」

 満を辞して歩み出た熊が鼻息荒く、彼女からペグを取り上げる。周りから、おお、という声が上がって余計に期待が高まった。

 でも俺だけは嫌な予感がしていた。ペグを持ったはいいが固まる熊。地面に力無く横たわるテントの前に立ち尽くし、こちらを見て、ははっと笑う。

 早速、俺の予感は的中した。

「海、これ最初どうすんだっけ」

 近づいてきたかと思えばこっそり耳打ちしてきて、もうなにも言えなかった。

「だから言ったろ……」

 結局、俺がもう一度同じものを建てる羽目になった。