「じゃあ本当にいいんだよな」
しかしなぜか念を押して聞いてくる熊になんだよ、と聞き返す。
「分かんないならいい」
しばらくして諦めたように言葉を濁され、余計に意味が分からなかった。
「海ってさ、ちゃんと誰か好きになったことある?」
床に転がった野球ボールをいじりながら、唐突に聞いてきた熊に目を丸くする。
過去に付き合った彼女を思い出しても、告白されて受け入れただけで特に自分の感情はそこにない。
だからつまらないとすぐに離れていったし、ほとんど関係が続いたことはなかった。
思わず首を捻ってみたら、熊は天井に向かってボールを放り出した。
「なあ、桐島のことどう思う?」
掴み損ねたボールがころころ転がっていくと、林太郎が質問とともにこちらへ投げてきた。
「どうって、別になんも。普通だけど」
慌ててキャッチし反射的に投げ返す。ふーんと言ったまま、もう一度ふんわりボールが戻ってきた。