「ずっと好きだったんじゃないのかよ」

 気づけば胸ぐらをつかみ、はじめて本気で熊に感情をぶつけていた。

 座ったまま静かに見守るふたりは、決して俺たちを止めようとはしなかった。

「そりゃ、月のことは可哀想だと思ってるよ。でも急にあんなこと聞かされてすぐ受け入れられるわけないだろ」

 熊の震える手が俺の腕を掴んできた。

「ここに来た理由思い出せよ」
「え?」
「好きな相手に男がいたからって、大事な幼馴染み見捨てんのかよ」

 俺の言葉に目を泳がせながら決まり悪そうに顔をそむけたが、胸ぐらへやった手にはより力がこもった。

「俺のこと巻き込んで、お前はどうしてもこの島に来たいって」
「それは海があのままだと可哀想だって」

 言った瞬間、後悔したようにハッとした瞳と目が合った。

「なんだよそれ」

 地獄のような環境から引っぱり出してくれた熊には感謝している。

 でも可哀想とか、そんな惨めな理由で情けをかけられていたのかと思うと堪えた。

「ストップ。その辺にしとけ」

 林太郎が割って入り、ゆっくり俺たちを引き剥がす。