「参ったなじゃねえだろ、なんだよ今の」
ショックのあまり言葉を失う。
私を押しのけていく海くんが勢いよく開けた扉が大きな音を立てた。
「なにが彼女気取りだよ。付き合ってたんだろ?」
誠くんはとぼけた顔で、いやいや、と首を横に振る。
「このブレスレット。お前から誕生日にもらったおまもりなんだって、嬉しそうにずっとつけてんだよ」
私の左腕を持ち上げ、今にも殴りそうな勢いで詰め寄っていくが、彼はいっこうに認めようとはしなかった。
「ねえ、どういうことかしら」
話に入ってくる加賀美先生は首を傾げ、顔を引きつらせる。
「誠、私には昔の教え子に好かれちゃって困ってるって言ったわよね。島まで勝手についてきたって」
軽蔑した目で彼を見る加賀美先生は、椅子に腰かけ頭を抱えた。
「違うよ、あれは合格祝いかなにかで」
「合格祝いにブランド物のアクセサリー? 随分気前がいいのねえ」
「欲しいってせがまれたから仕方なく」
私のことなんてろくに見ず、彼女の前でしゃがみ込む。ふたりの痴話喧嘩が始まり馬鹿らしく思えてきた。
こんなの浮気相手は私の方だ。