息の仕方を忘れるくらいに呼吸が浅くなっていき、視界までぼやけてくる。

 苦しい、助けて。心が悲鳴を上げていた。

「あいつ……」

 そこへ小さく聞こえてきた声は救世主のようだった。

「悔しくねえの?」

 驚いて振り返るとなぜか海くんが立っている。すごく怒っていた。

 私はあまりの衝撃に苦しさと悲しさがこみあげて、怒りの感情はどこかへ置きざりにしていた。

「いいのかよ、あんなこと言わせといて」

 私の代わりに彼の拳に力がこもった。

 言葉に詰まり後ずさると、運悪く扉にぶつかり音を立てた。

 同時に誠くんと目が合ってしまう。

「月ちゃん?」

 私を呼ぶのはいつもと変わらない優しい声だった。

「あの、私」
「いやあ、見られちゃったか。参ったなあ」

 修羅場を覚悟したが、彼は弁解する様子もなくポリポリと頭をかく。

 なにより驚いたのは彼がなにひとつ慌てていなかったことだ。