驚いたように目を見開いたあと、あまりの近さに顔を赤らめた彼女が俯いた。
「ごめん」
「あ、いえ」
慌てて手を離した。
「てか俺濡れたまま……、服平気?」
無意識に髪をかきあげたら、全身びしょ濡れだったのを思い出し、一気に申し訳なくなった。
「いえ、その……ごめんなさい。大丈夫です」
顎から滴り落ちる水が乾いた砂浜に吸収されていく。なんとなく気まずい沈黙が流れた。
「ヒサシブリ」
熊の大きな声でふたりの間に流れた空気がぱちんと割れた。
「あ、そうだった! ごめん熊くん」
彼女はあからさまに思い出したような言葉を発し、隣から明らかにじろりと睨む視線を感じた。
熊にとって大事な再会の瞬間。自分の出る幕ではないと重々分かっていただけに、目を見られなかった。
「あんなに遠かったのによく私だって分かったね」
「んー、いるとは聞いてたからなんとなく?」
「え、知ってたの?」
「月の母ちゃんがうちに髪切りにきたとき聞いた。でも本当に会えるとはなあ」
あれほど必死に探し回っていたはずなのに、桜井月の前で得意げに鼻を膨らませる。島に来てから必死に探し回っていたことなどなかったように、とにかく偶然を装っていた。