「なあ、飲み物でも……」

 わざとらしく視界に割って入ったが、それでも放心状態の彼女は黙ったまま俯いた。

 こういう時どうすればいいのだろう。

 俺はポケットから赤い薔薇の飾りを取り出して、彼女の手をとり握らせる。

 やっと顔を上げたと思えば、瞳には今にもこぼれそうな涙がたまっていた。

「これもつけとけ」

 彼女の手から取り上げた薔薇をそっと髪の中へ忍ばせる。

 困惑する彼女の前で、なにも言わずに同じものを自分の胸元にも刺しこんだ。

「話したい相手に送るんだって、自分が言ったんだろ」

 髪を触りながら戸惑う彼女の手を取ってホールの中央から遠ざかる。

 あのふたりが見えないようできるだけ遠くへ連れてった。