「さっき見たよ、同じのつけてる男。色違いだなっとか思って目に入ったんだ」
言葉が見つからなかった。
相手はおそらく星野だろう。
しかし校内のイベントで生徒とペアのものをつけるなんて、そんなリスクをおかすだろうかと、にわかには信じがたかった。
「あんま驚かないんだな」
一番穏便にすむ言い方を探していたら、そこを突くように言ってきた。
珍しく冷静な熊にこちらがうろたえる。
「月にそういう相手がいるって知ってたんだろ。そんなんしててもバレたって顔してんの見え見えだぞ」
熊は怒って会場を出ていった。
気持ちを知っていながら星野の存在を黙っていれば、いずれこうなることは分かっていた。
それでも言えなかったのは、俺にだけ打ち明けてきた桜井月の気持ちも簡単には裏切らないと思っていたからだ。
頭を抱えながらいまだ歩き回っている彼女の姿がちらちらと視界に入る。
ふたりの間で板挟みになっている状況に苛立ちながらも、人の波に飲まれそうになっている彼女をどうしても放っておけなくなった。