「学校って警察が安易に介入していい場所じゃないと思ってるんだよね」

 咥えた飴をコロコロと口の中で転がして、遠くを見つめる。

「良いか、悪いか。高校生にもなればみんな分かってる。だけど大事なのはそれをどう理解しているかで、この狭いコミュニティの中でどう学んでいけるかってことだと思うの」

 まさか警察官の彼女から、教師より教師らしいセリフで諭されるとは思ってもいなかった。

「いざって時には必要だけど。そういう意味じゃ警察なんていてもいなくても変わらない、くらいになってほしいじゃない」

 自分の世界に入り込み、つらつらと語り続けた佐伯先生の言葉には、一瞬も入る隙がなかった。

 ハッとして立っている俺を見た。

「とまあ、これはあくまで私個人の意見で、上からは警察官らしくしろってきつく言われてるんだけどね」

 冗談ぽく笑いかけてきた。

 俺は黙ったままぺこっと会釈して階段をおりる。

「気が向いたらビーチおいでよ」

 佐伯先生の声に一瞬迷い、立ち止まる。

「なんか、変な人っすね」

 振り返りざまに言い残し、あとの数段をおり終えた。

 大きな金属製の扉を開けて入る会場の奥には、緩く伸びる太い螺旋階段が吹き抜けの二階に向かって続いている。