「大丈夫」

 小さく答える彼女はパーカーをグッと中央に引き寄せ、なにか言いたげだ。

 俺は少し待ったが、しばらくなにも話し出す様子もなく、勘違いだったかと立ち上がる。

 じゃ、と帰ろうとした。

「ありがとう」

 声が聞こえて振り返る。

 急になにかと思えば、パーカーを握りしめたまま恥ずかしそうに俯いている姿があった。

「逃げろって言いにきてくれて……守ろうとしてくれて……ありがとう」

 素直な桐島は、なんだかむず痒い。

 よく見れば眉間にシワを寄せて怖い顔をしていて、明らかにお礼を言うときの顔ではない。

 どうもセリフと顔が合っていなくて、思わずぶっと吹き出した。

「なによ。笑わなくたっていいでしょ」
「今更だな」
「だって!」

 顔を真っ赤にして悔しそう顔を歪める。

 あまりにも不器用すぎるとおかしくなった。