ため息をつきながら歩いていたら、うっすらピアノの音が聴こえてくる。

 音楽室のプレートが見えてきて、透き通るような歌声もした。

 扉の小窓から覗き込めば、グランドピアノに座っている桐島が見える。

 流ちょうな英語が混ざったバラードの曲は、心地よく耳に届いてその場で聞き入ってしまった。

 扉に背中を預けて聞いていたら、途中で歌声がぷつりと切れる。

 気になってもう一度中を覗くと、間近に立っていた不機嫌そうな彼女と窓ガラス越しに目が合った。

「盗み聞き」
「聞こえてきただけ」

 仕方なく扉を開けて中に入ったら、CDが床に散らばっており、厳選して選んだ痕跡が残っている。

 音楽には特に疎くどれが有名なのかもまるで分からない。

 適当に拾い上げながら近くにセットリストが落ちているのを見つけて、不意に彼女を見た。

「怪我は?」

 まだ腕には分厚く包帯が巻かれている。

 いつも着ているパーカーは、左腕だけ袖を通さず、だらんと垂らして羽織っていた。