俺たちが黙って見ていることしかできないでいると、にやりと笑った男がとうとうナイフを振り上げた。
ぐっと目を閉じた瞬間、突然大きな発砲音がした。
「なにが天国ですって?」
茂みの方から女の声が聞こえた。
男はナイフを落とし、手から血を流して膝をつく。倒れ込む桐島はその場で腰を抜かした。
「国が預かってる子供たちの環境を、あんたみたいなクソ野郎がのびのびできるような場所にするわけないでしょ」
拳銃を構えながら姿を現した人物を見て口があんぐりと開く。
「佐伯先生……」
桜井月がそう口にしたまま言葉を失った。
後ろからもうひとり出てきた男もダイビングの授業で見たことがある。
「交番がなくたって警察官はいるのよ」
すかさず警察手帳を開く姿に、本物なんだと驚きを隠せない。
拳銃を男に向けたまま近づいていき、桐島の腕を掴むとゆっくり引きよせた。