桜井月はゆっくり近づいていき、じっと見つめたあと勢いをつけて抱きついた。

「ちょっと痛い!」
「あ、ごめん」

 傷を押さえてムッとする桐島の表情が見える。

「ねえ、私たち友達でしょ?」

 それでも真っすぐな桜井月の言葉に、困ったように目を泳がせていた。

 なんなのよ、と強がりながら感極まって涙しそうになっている。少しずつ閉ざされた心が溶かされていった。

「友達ごっこは終わったか?」

 一瞬だけこの状況を忘れかけていた。

 痺れを切らした男はナイフをこちらに突き出してくる。

「おーい、動くんじゃねえぞ」

 林太郎と共に出て行こうとしたが、桐島の腕をぐっと引っ張り人質にとった。

 首元に刃先をつきつけており、こちらも動けなくなる。

 凶器を持った犯罪者に立ち向かえる勇気も勝算もなく、このあと彼女を助け出せるイメージも湧かない。

「ここはいいよなあ。港で聞いたぞ。警察も交番ないんだって? こんな天国みたいなとこに逃げ込んでくれてありがてえよ」

 今にも刃先を押し込みそうに突きつけながら笑っている。

 顔面蒼白の桐島も息を震わせていた。