「なんでどこにもいないかな」
「学校始まれば嫌でも会うじゃん」
「それからじゃ遅い。勝負はこの夏休み期間なんだ」
よく分からない理屈に首を傾げながら、退屈でたまに辺りを見渡す。周りにいる女子と目が合い、若干の居心地の悪さを感じていた。
「どこかにいるから。絶対会える」
自分自身を納得させているのか、ひとりでぶつぶつと呟きながら諦めずに目を凝らしている。隣で必死になっているのを見ながら、何をするでもない時間を過ごす俺は大きな欠伸が出た。
【月がこの学校行くんだって!】
去年、嬉しそうにメッセージを送ってきたその夜、うちまで来て興奮気味に話していたのを覚えている。
熊は彼女と再会するために編入を決めた。
俺はあの現実から逃げられるならなんでもよくて、一緒に行こうと誘ってきた言葉にふたつ返事だった。でも熊は桜井月と一緒にいられるとそれで頭がいっぱいで、親友としては少しの不安を感じていた。
「なあ、こっから探すの無理があるんじゃ」
「あっ!」
熊がまっすぐ指をさし、なにかに気づいた様子で声を出す。
その直後、油断していたせいで後ろから来た高波に気づかず、ふたり揃ってさらわれた。頭からびしょ濡れになりながら、それでも指さす先は変わらず、つられて熊の視線の先に目をやった。
テトラポットの脇に淡い水色のワンピースが見えた。