「悪いやつは結局のうのうと生きてるの。私はこの世にあいつがいないって思えるだけでいい」
「そんな」
「どうせ私の気持ちなんて分からないくせに。もう放っといて!」
桐島はムキになり、足早に小屋を出て行ってしまった。
三人で慌ててあとを追いかけた。あの男の姿が見えないとはいえ、近くにいないとも限らない。安易に外へ出るのは危険だった。
「よお、お友達はどうした?」
扉を開けた途端、声が聞こえてくる。
案の定、男に見つかっていた。
「さすがに見捨てられたか。可哀想になあ、やっぱりお前がいるとみんな不幸になるんだってよ」
小屋を出ようとする俺たちの姿には気づいていないようだ。嫌味な言い方をするあの男がにやりと不敵な笑みを浮かべながら、桐島の方へゆっくり歩み寄っていくのが見える。
そろそろ腹が立ってきた。
あいつ、と口にしながら出ていこうとしたら、桜井月が先に俺を押し退けて飛び出して行った。
「放っとけないよ!」
桐島が驚いて振り返る。
「なんで出てきて」
「たしかに気持ちは分かってあげられないかもしれない。でももしナオミに会えなくなったら私が嫌なの!」
男なんて見えていないかのような一方的なセリフに、ふっと笑みがこぼれる。