「この世で一番嫌いな男なんでしょ? そんな人と同じことしちゃだめ」
桐島は目を丸くして見上げた。
「悪いことしたら、いつかちゃんと自分に返ってくるんだって」
桜井月はこみあげてくる涙を堪えるように、歯を食いしばっている。
「私ね、いじめられてたことあった。SNSにあることないこと書かれて、クラスでもずっと孤立してたの」
桐島に寄り添い、思い出したくもないであろう過去を目の前に引っ張り出す。
いつも明るく、天真爛漫な彼女にもそんな過去があったとは初めて知った。
「私も相手のこと恨んだりしたよ。でもね、ある人がそう言ってくれて救われて」
「だからなに」
しかし桜井月の説得は、桐島の心には届かなかった。
「悪いことしたらいつか報いを受けるって? 笑わせないでよ。馬鹿みたい」
桐島は呆れた顔で立ち上がる。
重く張り詰めた空気の中には俺たちの入る隙もなく、林太郎と視線を交わらせ唾を飲み込む音さえ控えた。