「ごめん」
しばらくしんとしていたかと思えば、聞こえた声に林太郎と目を見合わせる。
「私のせいで、危険に巻き込んだ」
声のする方を向けば、桐島が珍しく素直に言葉を発していた。
それから初めて隠してきた過去を語った。
物心ついた頃から母親と一緒に殴る蹴るの暴行を受けていた彼女は、ずっと父親に怯えて生きてきた。
ギャンブルに依存する父親はいつも苛立っていて、タバコの火を押し付けたり沸騰した湯をかけたりとその行動はどんどんエスカレートしていった。
小学三年生のクリスマス、とうとう母親を刺して捕まった父親は六年の懲役で服役することになった。母親は意識不明の重体で、今もなお植物状態のまま入院している。
「人生うまくいかないのはお前が産まれてきたせいだって、刑務所出てから何度も追いかけ回された。もうそんなの嫌。だから……」
「それでもだめ!」
桜井月ががばっと立ち上がった。その先に続く言葉は思いつめる桐島の表情からなんとなく察しがついたが、いち早く反応した彼女は怒っていた。