「おい、なにしてんだよ」
そこにはあの男が持っていたナイフが入っている。よからぬことを考えていないかと、俺は慌てて桐島の腕を掴んだ。
「離して! とめないで!」
ポケットから案の定ナイフが滑り落ちる。キャッと小さな悲鳴ともとれる桜井月の声がして、同時に力いっぱい振り払われた俺は反動で尻餅をついた。
「とめるに決まってんだろ。お前なにする気で」
「もうどうでもいい!」
声を荒げる彼女にぎょっとした。
目があった瞬間、いっぱいの涙を溜めてこちらを睨みつけてきたからだ。
「こいつは私からお母さんを奪った」
涙声で訴える彼女に、後ろからは「えっ」と小さく声が聞こえた。
「島までくれば絶対見つからないと思ってたのに」
地面にぺたりと座り込む彼女は震える自分の手をぎゅっと握る。
なにがあったか事情はまるで分からない。ただ、この男からずっと逃げていたことだけは確かだ。
「私の人生こいつがいる限り一生変わらない。どこまでも追ってくる。もう終わらせたいの!」
悲痛な叫びが鳥たちを驚かせた。一気に羽ばたいていく音を耳にしながら、ごくりと唾を飲む。
三人とも呆気に取られ、言葉を詰まらせていた。