「で? 誰こいつ」 

 横たわる男は気を失っている。

 林太郎が顎で指しこちらを見てきた。俺はどう言ったらいいか分からず、曖昧な表情を作りながら、ちらっと桐島に視線を向ける。

「この世で……一番嫌いな男」

 ぼぅっとしたまま男を見下ろす彼女が、重い口を開いた。

「私の父親」

 空気がしんと静まり返る。

 風がサーッと木々の葉を触りながら、間を通り抜けていくのを感じた。

「とりあえず、ここから離れよう。こいつが目を覚ます前に」

 なんとなく想像していた通りで、俺は真実を聞いても意外と冷静だった。

 気まずい空気に割って入ったら、反応に困っていたふたりはすかさず頷く。

 しかし、桐島がじわりじわりと重い足取りで歩き出し、三人の視線が固まった。横を通り過ぎていく彼女に注目していたら、急にしゃがみ男のポケットに手を突っ込み出した。