「い、行けっ!」
必死だった。
反射的に、男に突進し跳ね飛ばす。迷いながら少しずつ後ずさるふたりに、早く行けと言おうとしたとき、「前!」と桜井月が声を上げた。
「おいおいおい、かっこいいねえ。でも高校生の力で俺に勝てると思ってんのか?」
気づくと、上から覆い被さっている男に首を絞められていた。
遠くの方から名前を呼ばれている気がしたが、意識が朦朧とする。
息が、できない。プールの底に沈んでいくあの日の息苦しさが蘇り、全身がぞわりとした。
「やめて!」
桐島の悲痛の叫びだけが耳に届く。もう無理だと死を覚悟したとき、急に目の前が開けたみたいに息ができるようになった。
「あぶねー」
太い枝が落ち、地面に乾いた音を鳴らす。ゲホゲホと咳き込みながらかすむ視界の中で見えたのは、あの男ではなく林太郎だった。
「捜すのに手こずった」
「おせえよ、その辺で見てたろ」
林太郎の肩を借りて立ち上がりながら、あまりのタイミングの良さに冗談を言って笑う。
心配そうに駆け寄ってきた桜井月には、大丈夫だとただ頷いた。

