足音は確実に近づいてきている。
そっと目だけを覗かせると、あの男が小枝を踏みつけながら歩いてくるのが見えた。
慌てて隠れ、そばで縮こまるふたりを見る。この状況では俺が守るしかないという強い使命感に駆られた。
「俺が向こうに走って引きつける。十数えたら逆方向に走れ」
あの男にバレないよう小声で言う。
俺がおとりになるしかないと、深く息を吐き出し覚悟を決めた。
「だめ」
しかし、ぐっと後ろに引っぱられた。
「あいつは危険なの。殺されるかもしれない」
桐島は息を浅くし、唇をギュッと噛んだ。
不意にあの男のポケットから見えたものを思い出し、足がすくむ。明らかにあれはナイフだった。
腕を掴んでくる力が彼女の真剣さを物語っていた。
「人を刺すことになんの躊躇もない犯罪者。だからおとりになるなんて絶対……」
そのとき、人影が頭上から覆い被さった。
「誰が犯罪者だって?」
心臓が飛び出しそうになる。
まだ姿を見ていないのに、声だけで全身の血の気が引き、足が震えてきた。

