「逃げろ! 早く!」
周りが一斉に何事かと振り返る。
しかし俺の声はひとりにしか向けられておらず、目を大きく開いた桐島が桜井月と共に慌てて走り出した。
彼女たちを追って走り出すと、居合わせた人もつられて港は大混乱に陥った。
振り返れば、あの男は人混みに揉まれて上手く進めなくなっている。
「チャリ!」
チャンスだと思い、近くに停まっている他人の自転車を指す。無我夢中で跨るふたりを見て少しでも時間を稼ごうと、ひと蹴りして自転車の列をなぎ倒す。
ふたりに続いて俺も慌ててペダルをこぎだした。
息切れする三人の声が混ざり合う。
「もう限界」
自転車を降り、桜井月が倒れこんで地面にへたりこむ。俺は肩で息をしながら、膝に手をつき振り返った。
「しつこいな」
「え?」
ほぼ高低差のない一本道で遠くがよく見える。男も自転車を使っているのか、こちらにどんどん人影が近づいてきているのが確認できた。

