無人島でぼくたちは


「知ってる?」

 奥のトイレに入ったのを確認し、こっそり耳打ちしてくる熊に俺は首を傾げた。

「やっぱり。島じゃ見かけないけど商船の人かな」
「港にトイレがあんのにわざわざこっちくるか?」

 小さな島で二ヶ月ほど暮らしていれば、大人の顔なんていやでも覚えてくる。教員か、数少ない店の店員に限られてくるからだ。

 商船でもある程度同じ人がくるから見ればなんとなく分かるはずなのに、あの男は全くの初見だった。

 なんとなく不審に思っていたらガラスを叩く音がして、桜井月の怒った顔が見えた。

「ちょっと海くん! なにサボってるの、市場にナオミだけ残してきちゃったじゃん!」

 ぐるりと入り口に回って、ズカズカ店内に入ってきた彼女に苦笑いを浮かべる。

「分かったよ」

 俺は仕方なしに雑誌を元の位置に戻す。

「困りますよ? 実行委員は海くんなんだから責任持ってやってもらわないと」
「はいはい」

 ぶつぶつ文句言う彼女を軽くあしらっていたら、後ろから急な衝撃を受けた。

「すみません」

 邪魔だったのかと声を出すと、さっきトイレに入っていった男がなにも言わずに店を出ていった。不信感しかなく、足早に港へ向かう後ろ姿を睨みつけた。

「ん?」

 熊の声がした。

 さっきの男がぶつかった拍子に一枚の写真を落としていき、まじまじと見ては唸っている。俺の位置からは子供の写真に見えた。