「どうした、悩める少年」

 しばらく波の音に耳をゆだねていたら、聞き覚えのある声が割って入ってきた。

 傍にはウエットスーツ姿の佐伯先生が立っていて、短いボブの濡れた髪をかき上げながら隣に腰を下ろしてきた。

「深刻そうな顔しちゃって」
「なにもないっすけど」

 あぐらをかき、何気なく近くの砂を手でさらう。

 しばらく沈黙が続いた。そのうち先生から、うーん、と小さな唸り声が聞こえた。

「しょうがないなあ。君より少しだけ長く生きてる先輩が話でも聞いてあげようか」

 ちらりと視線を向けたら、にかっと歯を見せて笑ってきた。

 一瞬考えたがどれもこれも相談できる相手ではなく、すぐに目をそらした。

「大丈夫っす」
「ちょっと、つれないなあ」

 つまらなそうに言う先生の言葉を無視して、俺はひとりの世界に入る。水平線の先を見た。

 視界の端に小さなヨットのようなものが映りこんでくる。よく見るとサーフボードから伸びる帆の向きを変えながら、水上を滑るようにして進んでいる人がいる。

 自然と目で追っていた。