「海くんってば! 聞いてる?」

 翌日も放課後はレストランにいた。目の前には頬を膨らませムッとした表情でこちらを見ている桜井月の顔がある。

「衣装のデザイン相談しようって言ってたのに」
「ああ、いいよ。好きなので」

 うわの空で生返事をしながら彼女を見つめる。

 灯台であんな現場を目撃してからというもの、どうしても彼女のことを考えてしまう。ハロウィンの話し合いなんてほとんど頭には入ってこない。

 あんな事実を知ってしまい、なにも知らない彼女に言うべきか言わぬべきか、ただそれだけが頭の中をぐるぐると回った。

「ごめん、ちょっと歩いてくるわ」

 なんとなく同じ空間にいるのが落ち着かず、気分転換にひとりで外へ出た。

 行く当てもなく歩いていたら自然とビーチに辿り着いた。今日の波が穏やかだ。

 日差しがじりじりと肌に吸収されていくのを感じながら、おもむろに座った砂浜の上に足を投げ出す。

 遠くの波打ち際で、濡れた砂の中を小さなスナガニがもがいているのを見た。