もちろん私は青いバラ『ブルー・マリア』を、ドレスの胸元にこれみよがしにつけてアピールする。

「ま、マリア様!? この青いバラはいったいなんですの!?」
「このような不思議なバラが、この世の中に存在するだなんて……!」
「もっと近くで見せていただけませんか!?」
「わたくしにも!」
「マリア様!」
「マリア様!」

 すると始まってすぐに、パーリーに参加する令嬢という令嬢が、私のもとへと集ってきた。
 仲のいいお友達だけではなく、普段は激しくライバル視しあっている令嬢たちまでもが、青いバラを見たさに私のもとへと、愛想笑いをしながらへーこらと挨拶にやって来るのだ。

「ええどうぞ。いくらでも見ていってくださいな」

 もちろん私は、それに満面の笑みを返した。

「青いバラなんて初めてですわ。こんな素敵なものを、いったいどこで手に入れられましたの?」
 ライバル令嬢の一人がさりげなく出所を探ろうとしてくる。

 ぷー、クスクス!
 必死だね(笑)
 でも全部お見通しだから。
 プゲラw

「私は最近バラを愛でることにハマっておりますの。ちょうどセレシア家専属の庭師に品種改良に()けた者がおりましたので、いろいろと私好みのバラを作ってもらっているんですのよ。この青いバラももその一つでして」

「そ、そうでしたのね。さすがはセレシア侯爵家ですわね……」

 くくく……!
 アーハハハハッ!

 なんとも悔しそうに言うじゃないの!
 そうよ、その顔が見たかったのよ!

 どれだけ羨ましがっても、青いバラはあんたには手に入れられないもんねー!
 私だけしか持ってないもんねー!

 挿し木をする時の台木(だいぎ)に適したバラの種類とか、温度管理やら肥料のやり方やらアレヤコレヤの栽培のコツとか。
 そういう秘伝のレシピは、絶対に口外しないように厳命しているんだもんね~!!

 んー?
 欲しい?
 欲しいよね~?
 でも、あーげない!

 ざまぁ!
 残念!!

 くふふぅ、超気持ちいいわ。
 今日の私は完全に、完膚なきまでに、令嬢カーストの頂上にいる――!


 だがしかし。
 私の青いバラ・マウントは長くは続かなかった――というか即座に終了した。


 後日。

「マリア様。『ブルーマリア』及び、新種のバラの輸出体制が整ったそうですな。今後は我が国の新しい産業として、おおいに外貨を稼いでくれることでしょう」

 セバスチャンが私の部屋のテーブルに置かれた分厚い資料にチラリと目をやりながら、感慨深げにつぶやいた。

「らしいわね……」

 たいして私はどこまでもローテンションだった。
 鏡を見たら目が死んでいると思う。
 もう見なくても分かる。

「それもこれも、マリア様が『ブルー・マリア』開発に莫大な資金を投入したことがきっかけ。御館様(お父さまのことね)もまたいっそう、お忙しくなることでしょうな。なにせ国を挙げての大事業の、陣頭指揮を任されているのですから」

 そう。
 私が手に入れた青いバラ『ブルー・マリア』。
 私は当然のごとくこの株を独占することで、令嬢カーストのトップに立ち続けようとしたのだが――。

 しかしパーリーの翌日に、興奮気味のお父さまからこう言われてしまったのだ。


~以下、回想~