「やばい、やばいやばい、マジやばい……!」
その日、私は超大ピンチを迎えていた。
「お、おおおおお父さまが大事に育てていた盆栽を、蹴飛ばしてボコボコにへし折ってしまったわ……!?」
盆栽っていうのは東の果ての島国ヤパルナから伝わった(とお父さまが言っていた)、鉢植えの小さな樹木を芸術的に育成するミニチュアガーデニングのことだ。
毎日毎日、超忙しいお父さまが唯一静かに心を許せる時間が、私と過ごす時間ともう一つ、盆栽を手入れする盆栽タイムだったんだけど。
その中でもこれはお父さまが若い頃からそれはもう大事に育ててきたっていう、特にお気に入りの一品じゃん!?
やばい、これ本気でヤバい。
あふぅ、こんなのバレたらお小遣い減らされるじゃすまないよぉ。
「どうする、どうしよ、どうしようもない!」
よし、こうなったらバレないうちに逃げちゃおう。
だいたいさ?
なんでよりにもよってこのお父さま一番お気にの盆栽が地べたに置いてあるのよ?
本来ちゃんと棚の上にあるはずでしょ?
そりゃたしかにわたしがボーっと歩いてたのも悪いかもだけど?
でもでもそんなところに置いてあったら、見えなくてつい蹴り飛ばしちゃっても仕方なくない?
ヒューマンエラーが起こるべくして起こっただけだよね?
「キョロキョロ……よし、それに誰も見てないもんね! そんなん逃げるしかないじゃん!」
はい決定!
この件について私は何も知らないし、盆栽ルームには入りもしなかった、うん。
そう思ってぴゅーっと逃げようとしたら、
「ぎぃやぁぁぁぁーーーーっっっっ!?」
ちょうどお父さまがやって来たじゃない!?
しかもバッチリと目が合ってしまったわ!?
「ああ、もうだめ。これはもう言い訳がきかないわ。さようなら私のお小遣い。次のパーリーのための新しいドレスを仕立てたかったのに……」
脱走に失敗した私が天を仰いで嘆いていると、ついにお父さまが盆栽ルームへと入ってきてしまった。
「……マリア、これはいったいどういうことなのかね?」
蹴り飛ばされてボコボコになったお気に入りの盆栽を見て、お父さまの眉間に皺が寄る。
「これはその、お父さま。大変申しあげにくいことなのですが、これにはとても込み入った事情がありまして……私の足がちょっとその、盆栽さんとアバンチュールしてしまったと申しますか……ですから、あのその、なにとぞどうか、お小遣いだけはご勘弁願えませんかと……」
私が半べそで詫びを入れて、どうにかお小遣い取り上げだけは見逃してもらおうとした時だった。
「マリア様は悪くありません! 悪いのは私なんです!」
なんかメイドが一人走ってやってきた。
えーとたしか盆栽係のメイドだったかな?
私とはあんまり接点ないからよく覚えてないや。
それでそのメイドはというと、
「本当は私が、ご主人様が大事にされていた盆栽の枝を一本折ってしまったんです! それで私、怖くなって思わず逃げてしまって!」
「なんだって?」
「それで今、様子をうかがいに戻ってきたら、マリア様が代わりに怒られているのを見てしまって……!」
「な、なんと! いやだが、盆栽は枝一本どころか、見るも無残にボコボコに蹴り飛ばされていたのだが?」
ギクぅッッ!
「それはきっとマリア様が私の身代わりになるために、あえて盆栽をぼこぼこに蹴り飛ばして、罪を被ろうとなさってくれたのです!」
「ふえっ!? 私が身代わり!?」
なにそれ初耳だよ!?
「だから悪いのは私なんです! マリア様は何も悪くないんです! ご主人様の大切な盆栽の枝を折っただけでなく、あろうことか怖くなって逃げてしまい、本当に申し訳ありませんでした。全ては私の責任です! いかようにも罰をお与えください」
盆栽係のメイドは泣きながら地面に両手をつくと、額とこすりつけるように土下座をする。
そんなメイドを見たお父さまが、優しい口調で言った。
「そうか、そういうことだったのか……よろしい、君はもう下がりなさい。今回の一件は全て不問に付すとしよう」
「ご主人様……?」
「ほら、立って顔を上げなさい。それに罰を与えるなどとんでもない。なぜなら私は今、娘の成長を実感できてとても気分がいいのだからね。マリア、素敵なレディに成長したね」
「え? あ、はい」
「まさか使用人の罪を敢えて被ろうとするとはね。まだまだ小さな子供だと思っていたが、もうすっかり一人前のレディになっていたんだね」
「そう……ですね?」
やばい、もうほんとのことなんて絶対言えない雰囲気。
オッケー。
これについては一生黙っておこう。
「そう言えばマリア、もうすぐ大きなパーティがあると言っていたね? 新しいドレスを買うのにお金がいるだろう? 今月のお小遣いは3倍にしておくからね」
「ほんと!? やった!! だからお父さま大好き! 愛してる!」
喜びのあまり私はお父さまに飛びついた。
「ははっ、そういうところはまだまだ子供だね」
いやーうん。
一時はどうなることかと思ったけど、お小遣いがなくなるどころか3倍だよ3倍!
やったぁ!!
その日、私は超大ピンチを迎えていた。
「お、おおおおお父さまが大事に育てていた盆栽を、蹴飛ばしてボコボコにへし折ってしまったわ……!?」
盆栽っていうのは東の果ての島国ヤパルナから伝わった(とお父さまが言っていた)、鉢植えの小さな樹木を芸術的に育成するミニチュアガーデニングのことだ。
毎日毎日、超忙しいお父さまが唯一静かに心を許せる時間が、私と過ごす時間ともう一つ、盆栽を手入れする盆栽タイムだったんだけど。
その中でもこれはお父さまが若い頃からそれはもう大事に育ててきたっていう、特にお気に入りの一品じゃん!?
やばい、これ本気でヤバい。
あふぅ、こんなのバレたらお小遣い減らされるじゃすまないよぉ。
「どうする、どうしよ、どうしようもない!」
よし、こうなったらバレないうちに逃げちゃおう。
だいたいさ?
なんでよりにもよってこのお父さま一番お気にの盆栽が地べたに置いてあるのよ?
本来ちゃんと棚の上にあるはずでしょ?
そりゃたしかにわたしがボーっと歩いてたのも悪いかもだけど?
でもでもそんなところに置いてあったら、見えなくてつい蹴り飛ばしちゃっても仕方なくない?
ヒューマンエラーが起こるべくして起こっただけだよね?
「キョロキョロ……よし、それに誰も見てないもんね! そんなん逃げるしかないじゃん!」
はい決定!
この件について私は何も知らないし、盆栽ルームには入りもしなかった、うん。
そう思ってぴゅーっと逃げようとしたら、
「ぎぃやぁぁぁぁーーーーっっっっ!?」
ちょうどお父さまがやって来たじゃない!?
しかもバッチリと目が合ってしまったわ!?
「ああ、もうだめ。これはもう言い訳がきかないわ。さようなら私のお小遣い。次のパーリーのための新しいドレスを仕立てたかったのに……」
脱走に失敗した私が天を仰いで嘆いていると、ついにお父さまが盆栽ルームへと入ってきてしまった。
「……マリア、これはいったいどういうことなのかね?」
蹴り飛ばされてボコボコになったお気に入りの盆栽を見て、お父さまの眉間に皺が寄る。
「これはその、お父さま。大変申しあげにくいことなのですが、これにはとても込み入った事情がありまして……私の足がちょっとその、盆栽さんとアバンチュールしてしまったと申しますか……ですから、あのその、なにとぞどうか、お小遣いだけはご勘弁願えませんかと……」
私が半べそで詫びを入れて、どうにかお小遣い取り上げだけは見逃してもらおうとした時だった。
「マリア様は悪くありません! 悪いのは私なんです!」
なんかメイドが一人走ってやってきた。
えーとたしか盆栽係のメイドだったかな?
私とはあんまり接点ないからよく覚えてないや。
それでそのメイドはというと、
「本当は私が、ご主人様が大事にされていた盆栽の枝を一本折ってしまったんです! それで私、怖くなって思わず逃げてしまって!」
「なんだって?」
「それで今、様子をうかがいに戻ってきたら、マリア様が代わりに怒られているのを見てしまって……!」
「な、なんと! いやだが、盆栽は枝一本どころか、見るも無残にボコボコに蹴り飛ばされていたのだが?」
ギクぅッッ!
「それはきっとマリア様が私の身代わりになるために、あえて盆栽をぼこぼこに蹴り飛ばして、罪を被ろうとなさってくれたのです!」
「ふえっ!? 私が身代わり!?」
なにそれ初耳だよ!?
「だから悪いのは私なんです! マリア様は何も悪くないんです! ご主人様の大切な盆栽の枝を折っただけでなく、あろうことか怖くなって逃げてしまい、本当に申し訳ありませんでした。全ては私の責任です! いかようにも罰をお与えください」
盆栽係のメイドは泣きながら地面に両手をつくと、額とこすりつけるように土下座をする。
そんなメイドを見たお父さまが、優しい口調で言った。
「そうか、そういうことだったのか……よろしい、君はもう下がりなさい。今回の一件は全て不問に付すとしよう」
「ご主人様……?」
「ほら、立って顔を上げなさい。それに罰を与えるなどとんでもない。なぜなら私は今、娘の成長を実感できてとても気分がいいのだからね。マリア、素敵なレディに成長したね」
「え? あ、はい」
「まさか使用人の罪を敢えて被ろうとするとはね。まだまだ小さな子供だと思っていたが、もうすっかり一人前のレディになっていたんだね」
「そう……ですね?」
やばい、もうほんとのことなんて絶対言えない雰囲気。
オッケー。
これについては一生黙っておこう。
「そう言えばマリア、もうすぐ大きなパーティがあると言っていたね? 新しいドレスを買うのにお金がいるだろう? 今月のお小遣いは3倍にしておくからね」
「ほんと!? やった!! だからお父さま大好き! 愛してる!」
喜びのあまり私はお父さまに飛びついた。
「ははっ、そういうところはまだまだ子供だね」
いやーうん。
一時はどうなることかと思ったけど、お小遣いがなくなるどころか3倍だよ3倍!
やったぁ!!