その日は特に変わったことのない休日――のはずだった。

「むにゃむにゃ……愚かな貧民どもめ……スーパーセレブの私を崇め奉りなさい……にゅふふふ……」

 私はベッドで休日の朝を優雅にまどろんでいた。

 休日の朝にぬくぬくのお布団で、二度寝をしながらうだうだぐずぐずするのって、ほんと気持ちいいよね……。

 最近はお父さまの代役であちこち行ってハードスケジュールが続いてたし。
 今日はお父さまが領地に戻って屋敷にいないし、もうちょっとゆっくりまどろんでいようっと……。

 そんなことを半分寝ながら考えていると。
 パタパタパタ!と廊下を走るクソうるさい音がして、

「マリア様大変です!」

 専属メイドのアイリーンがノックもせずに寝室の扉を開けて入ってきやがった。

 しかもやたらと声がデカくてうるさいのよ。
 こいつの主人はいったいどんな教育をしてるのよ……! 

 って私じゃん!
 私の専属メイドじゃん!

 よし、こいつもうクビ。
 はい決定。

 気持ちよく二度寝していたのを妨害された私は、青筋を浮かべながら身体を起こした。

「アイリーン、そのふざけた態度はなに? たかがメイドの分際でこの私の優雅な二度寝を邪魔するとか、いったいあんたは何様のつもりなの?」

「申し訳ありません、ですが一大事なんです!」

 イラぁっ!!
 この期に及んで口答えですって!?

「私が二度寝を邪魔されることより大変なことなんて、あるわけないでしょこのクズ! あんたもうクビよクビ! 荷物をまとめて今すぐ屋敷から出て行きなさい! 今すぐよ!!」

 当然だけど私はブチ切れた。
 こいつが腹切りマイスターだとかそういうのはもうどうでもいいわ。

 こいつはクビ!
 クビったらクビ!!
 もう決めたんだから!

 しかしアイリーンはそれでも言った、

「現在、ここセレシア侯爵家は3000人ほどの武装した王国軍に周囲を包囲されております!」

 と。

「………は? あんたは何を言ってるの? 気でも触れたの?」

 もちろん私は意味が分からず、首を傾げる。

 武装した王国軍に周囲を包囲されているですって?
 え、なんでよ?

 だってここは王都の一等地にある広大なセレシア侯爵家のお屋敷よ?
 お父さまは国のためを思ってやまない、それはもう素敵な紳士だし。

 どっか他所の馬鹿貴族の屋敷と間違えてるんじゃないの?

「それが事実なんです。マリア様、カーテンの隙間から外をご覧くださいませ」

 アイリーンに言われた通り、カーテンの隙間からそっと外を覗き見ると、そこには――。

「ちょっとアイリーン!? ものすごい数の兵士に屋敷が囲まれてるんだけど!?」

「ご理解はいただけたでしょうか?」

「こんなの見たら嫌でも理解するわよ。で、理由は? さっさと理由を言いなさいな」

「それがその、マリア様を国家反逆罪で逮捕すると言っているようなのです。速やかにマリア様の身柄を差し出すように要求されておりますが、セバスチャン様がなんとかそれを突っぱねている状況でして」

「はぁ? なんでよ? 私が国家反逆罪だなんて意味わかんないんだけど」

「どうやらマリア様の行った様々な救国活動を、国王陛下は快く思っていなかったご様子なのです」

「……何の話? あなたさっきからちょっとおかしいわよ? あああとクビは取り消すわ。だからとりあえず、その自分の首元に当てた短刀をしまいなさいね?」

 相変わらずのキ〇ガイムーブのおかげで、少しだけ冷静になれたわ。
 これはこれで便利な存在かもね。
 あと本当にどこにその自決用の短刀を隠してるのよ?

「それについては私の方からご説明いたしましょう」
 そこへセバスチャンがやって来た。

 常に柔和な笑顔を絶やさないセバスチャンにしては珍しく、少し疲れた顔をしている。
 それが何よりも雄弁に今の状況を物語っている気がした。