今日、私は孤児院の視察にやって来ていた。

 セレシア家は超絶お金持ち&お父さまはとても素敵な大陸一の紳士なので、余りあるお金でこういった貧乏人どもの支援活動を幅広く行ってあげているのだ。

「でも最近お父さまが忙しくて、代わりにこーゆーつまらないことに私が参加しないといけないのよね、はぁ……マジだっるぅ……」

 こんなのテン下げもテン下げもだよ……。

「だって孤児院だよ? 薄汚い貧乏人のガキどもの見本市だよ?」

 だから私は少しでも気分が晴れるようにと、最っ高に究極無敵にパーフェクトにこれでもかと着飾って、孤児院の視察に出向いてやった。

 髪を派手派手に盛って、高価なジュエリーをいくつもつけているのは当然として、

「この一着数百万のお気に入りのドレス。これだけでこの孤児院が1年か2年は経営できるんじゃないかしら(大爆笑)」

 当て布がいっぱいのボロをまとった貧乏人の子供たちの前で、それらを殊更に見せびらかしながら、

「あーん♪ はむっ。あー、美味しいわぁ♪」

 さらにはこいつらが一生口にできないであろう、セレシア家お抱えの最高級パテイシェが作ったチョコレート菓子を、これみよがしに口に入れる。

 一緒に孤児院を視察していた貴族や大企業の役員、同行の記者、行政職員たちが一斉に目を背けていたけれど、私はそんな赤の他人どもの視線なんて気にはしなかった。

 だいたいあんたたちだって内心では私と同じように、この哀れな子供たちを安全な高みから見下ろして、可哀そうねぇって笑っているんでしょう?

 ここで聖人君子の振りして慈善活動とかをしていても、お屋敷に帰ったら豪華なステーキを食べて、美味しいデザートを味わって、ふかふかのベッドでぐっすり朝まで眠るんでしょう?

 あんたたちだって私とやってることは一緒なのよ。


 貧乏人の子供たちが羨望の眼差しをしながら、ぐーぐーお腹を鳴らして見ているだけしかできないでいるのを、私は心行くまで堪能したのだった。

 あぁ、だめだわ。

「貧乏庶民に圧倒的なスーパーセレブリティをこれでもかと見せつけるのって、なんて気持ちいいのかしら!」


 ~~後日。

「マリア様が先日視察に行かれたNPOの代表から感謝状が来ております」

「感謝状? 私に? お父さまにじゃなくて?」

「はい、マリア様の痛烈なる社会風刺のおかげで、貴族や大企業が我先にと社会貢献活動に力を入れるようになり、NPOへの寄付額がたったの数日で昨年1年の1000倍を超えたとのことです」

「……なんの話?」

「またまたご謙遜を。さすがはマリア様、たった一度の視察で世の中の在り方すら変えてしまうとは。このセバスチャン、改めてマリア様の類まれなる慧眼と、他者の目を恐れずに実際にやってみせるその豪胆なる実行力に、心より感服した次第にございます」

「????????」

「申し訳ありません、つい涙がこぼれてしまいました。いやはや、年を取ると涙もろくなってしょうがありませんな」
 えーと、なんかセバスチャンが目元に指をやって、涙をぬぐい始めたんだけど?

「マリア様? どうされましたか?」

 えっ、いや。
 だってねえ?
 ほんとなんの話なの……?

 まぁ褒められて悪い気はしないからいいんだけど。


 ねぇねぇそこのあなた。
 ちょうどいいわ。

 参考程度にちょっとあなたの意見を聞かせてくれないかしら?