放課後、いつものように学校の玄関先で待っていたが、桜はなかなかやって来なかった。嫌な予感がして確認すると、桜からリンクにメッセージが届いていた。
 saku:ごめん、早退しちゃった。
 今朝、桜の調子はあまり良くなさそうだった。それでも透析の作用だと桜は言い、颯介の言葉も思い出して、彼女を無理に家まで送り返そうとする自分を文也は諫めたのだった。
 慌てて、大丈夫なのかと聞いてみる。それでも、桜がメッセージを送ったのは一時間前。通知に気づかなければ、すぐさま返事が来るはずはない。
 大変なことに陥ってはいないだろうか。不安で心配で心臓の鼓動が早くなる。
 取り合えず学校を出て、帰路に着くことにした。桜の家に寄るべきか。もし通院していたら此花病院か、電話をかけた方がいいのか。しかし、許可もないのに押しかけるのも気が引けるし、診察中だったら迷惑だ。機械を触れるぐらいなら、大した病態ではないのかもしれない。それでも、もし容体が悪化していたら……。
 考え続けていると、右手に握っているスマートフォンが振動した。立ち止まり、慌てて確認する。
 saku:大丈夫。今、病院。診察して検査して、結果待ち。
 病院にいるなら、もしものことがあっても、すぐに対処してもらえるだろう。文也は崩れそうなほど安堵する。
 ふー:わかった。連絡ありがとう。
 saku:ふー、ごめん。いつも心配してくれてるのに。
 朝の心配にも関わらず早退したことを言っているのだろう。「何言ってんだよ」と文也は苦笑いする。
 ふー:そんなの気にするなよ。俺は桜のストレスになりたくない。
 それから少しだけやり取りをして、桜は診察に呼ばれていった。文也はほっとして、大きく息をつく。とにもかくにも、桜が無事でよかった。自分の出番はないだろうと、御浜駅に向かう。
 その夜、桜からのメッセージに愕然とした。
 saku:入院することになっちゃった。
 可愛らしく絵文字をつけてはいたが、その一言は文也の胸に重く沈んだ。

 それから文也は、ほぼ毎日、此花病院に足を運んだ。四人の大部屋で、窓からの日差しに照らされる彼女の顔色は悪かった。それでも「ふー、暇なの?」と毎日の訪問に憎まれ口をきくぐらいには元気なようだった。
 桜の担任から受け取ったプリントやノート類を手渡すと、彼女はいつも熱心にそれを見た。授業に遅れるのが嫌だと、真面目な彼女は言う。
「真面目だな、桜は。入院してるときぐらい、勉強なんかいいだろ」
「学校に行った時、なんにもわかんないの嫌だもん。それに暇だし、ちょうどいいの」
 そうして笑う桜。時々、学校の友人も見舞いに来てくれるのだと言う。同室には年配の患者しかいないが、若い彼女を気遣ってよく話しかけてくれるそうだ。思ったよりも元気そうな姿に、文也は退院の目途が立つのを心待ちにしていた。