saku:ふー、さっさと宿題しないと、間に合わないよー。
「わかってるって」
 saku:わかってない。昨日も寝落ちしてたじゃんか。不真面目だなあ。
 はいはいと返事をして、渋々学習机の前に座る。文句を口にすれば延々と説教されそうな雰囲気に、だらだらと数学の教科書を開く。
 桜は消えなかった。タイムカプセルを掘り出した翌日の朝、気まずそうに「おはよう」と言った。あれだけのことをしてまだ向こうにいけないなんて、最早心残りの問題ではない気がしてくる。
「お祓いかなあ」シャープペンシルを走らせながらぼそっと呟くと「やだー!」とすぐさま返事がある。
 saku:ふーひどいよ。私、祟ってるわけじゃないのに。
「冗談だって。そんなことしねえよ」
 変わらない様子の桜は、変わらず近くにいる。彼女自身も、あれ以上の未練はなにも思い浮かばないそうだ。それなら本当に、修学旅行や七夕祭りだのといったイベントを全てこなさなければいけないのか。あまりに道のりが遠い。
「そろそろ行くか」
 教科書を閉じて立ち上がり、出かける準備をする。後半の補習授業が始まったが、今日は日曜日だ。
 saku:結局三十分しかしてないね。
「帰ったらやるよ」
 信憑性のない言葉を口にし、文也は家を後にした。