透析を受けることになった、と登校中に桜は言った。
「私の腎臓、使い物にならなくなったみたい」
 彼女は笑ったが、文也は上手に笑い返せなかった。
 腎臓は、体内の毒素をこしとる臓器だ。血液透析とは、腎臓の機能が悪くなってしまったため、ダイアライザーという機械を使って身体から血液を抜き取り、毒素を排除し、再び身体に戻す処置をいう。彼女の体調が悪くなっていたことは知っていたが、そこまでとは思わなかった。
「だからね、学校から直接病院に行ったり、早退することもありそうだから、ふーとは毎日一緒には帰れないかも」
「透析って、いつまで受けるんだ」
「一生。週三だって」
 桜の言葉に、思わず返事ができなくなる。そこまで桜の人生を縛り付ける病気が憎らしい。
「治ることってないのか」
「……もしかしたら」
 縋るような文也の台詞に、桜は何かを言いかけた。だが、「ううん」と首を横に振る。
「なんだよ。もしかしたらって」
「勘違いだった」
 わけのわからない台詞だったが、今はそれに突っ込む気にもなれない。文也はせめて明るい言葉を探す。
「まあ、それで桜が元気に暮らせるんなら、必要だよな」
「それでね。今度のゴールデンウィーク、その準備のために手術受けることになったんだ」
「手術?」
「そう。連休、颯介くんたちと遊ぼうって言ってたじゃない。でも私、行けないと思う」ごめん、と桜は呟いた。
「透析の話、前からあったんだけど、先延ばしにしてたんだ。でも、検査の結果見て、早く処置しましょうってことになって……。ゴールデンウィークが、丁度いいってなって」
「謝るなよ」項垂れてしまった彼女に、文也は言う。「あいつも俺も、桜が無理して来るのなんて、嫌に決まってるだろ。会おうと思えばいつでも会えるんだし、それで調子良くなったらまた遊べばいいだろ」
「……うん」
 いつの間にか、学校の玄関前に辿り着いていた。今朝もたくさんの生徒たちが、眠い目を擦りながら登校している。
「それじゃあ。またね、ふー」
 いつもより頼りない言葉を残し、桜は笑って手を振り、一組の靴箱に向かっていった。「またな」と文也も手を振り返した。