陽を浴びて乾燥した土を掘り進むのには力が必要だった。
 木を中心に半円を描いて並び、全員でシャベルを地面に突き立てる。熱中症に気を付け、疲れたら交代して水を飲み、再び作業に加わる。
「ミミズ、ミミズが出たー!」
 並んでスコップを握る双子が悲鳴を上げ、「地元だろー」と虎太郎が呆れ声をかけた。
「苦手なものは苦手なの!」
「そんなら虎太郎が追い払ってやー」
 わいわいと賑やかに地面を掘り続けるが、いくら葉が茂っていても真夏の山の中、小さなシャベルで穴を掘り続けると体力を奪われる。柄を握る手が痛くなり、地面につける膝に石ころが食い込む。
「虎太郎くん、そういえばお爺さんは」
 汗を拭って顔を上げた颯介に、虎太郎はそういえばと辺りを見渡した。少し前から重三の姿が見当たらない。
「えー、爺ちゃん逃げた?」
 こんなところで逃げるかよとぶつくさ文句を垂れる孫の虎太郎。「暑いし、しょうがないかもね」と颯介がカバーする。
 しかし、少しすると聞き慣れた犬の声が近づいてきた。ムギを連れた重三が山を登ってくる。
「おまえら、男どもはこれ使って働け」
 持ってきたのは、文也が持ってきたような折り畳みの小さなシャベルではなく、穴を掘るのに本格的な大型のシャベルだった。これを使えば足に体重をかけて掘ることができる。礼を言って、文也と颯介と虎太郎はそれを手に取った。ごめん、と祖父を疑った虎太郎は小さく呟いた。
「まあこいつも、足手まといにはならんだろ」
 長いリードの先を木の枝に引っ掛ける。ムギは思わぬ散歩にはしゃぎ、地面のにおいを嗅ぎ、前足で土を掘っている。
「ムギ、わかっとるみたいやん」夏澄がそれを見て笑う。「案外、ムギが掘り当てたりして」葉澄もくすくすと笑った。
 それから七人で、ひたすら掘り続けた。汗をぬぐい、水を飲み、木陰で休憩し、再びシャベルを地面に突き刺す。
「フミ、ちょっとは休憩しろよ」
「わかってる」
 颯介の心配に頷きながら、文也はほとんど休憩を取らずに穴を掘り続けた。硬い地面は十分に力を入れないと掘り起こせない。汗がこめかみを伝い、頬を流れ、首筋を垂れていく。今日で決着をつける。その思いで、文也は身体を動かし続けた。

 ふーちゃん、タイムカプセルをうめよう。

 桜はどんな気持ちで、誘ってくれたのか。幼い彼女の愛情が痛いほどに胸を刺す。おとなになったら、あけようね。あの日に見た彼女の頬には痣があった。杉ヶ裏での毎日は、桜にとって幸福な思い出だけではなかっただろう。
 ただ、隣に居る桜はよく笑っていた。ふーちゃん、ふーちゃん。いつだってそばにいた。ふーちゃん、だいすき。躊躇わずに、そう口にしてくれた。桜の声で、言葉で言ってくれていた。
 桜は、大切なものをここに置いてきた。ふーちゃんという仲良しとの思い出を、幸せな記憶の欠片を埋めた。誰にも告げずに去らねばならなかった彼女は、大きなヒントを文也だけに教えてくれたのだ。
「今、見つけるから」
 文也は、さくちゃんに伝える。だいすきなさくちゃん。そして、大切な桜。彼女たちを結びつける最後の破片が、ここに埋まっている。